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pkmnのデンジ・オーバとその周辺を愛でる非公式ファンブログ
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デンジとオーバが10代前半?くらいです。
夏の終わり































去り行こうとする季節の足音を聞いたのは、八月も末のある日の夕食後のことだ。
いつものように家族での食事を済ました後、オーバはその日も甘くて冷たいスイカ――その夏既に何度食べたかわからないそれ――が食べたかったのだが、母がきれいにカットしテーブルに出した、いかにも美味しそうな色のそれを口に含んでも、どうにもいまいちなのだった。
ついこのあいだまで奮っていた暑さはどこへやら、いつの間にか過ごしやすくなっている気候のせいなのかもしれない。
そんなことを一度考えると、薄着の肌は急に涼しくなって、飲み下した身体の内側がしんみりとひえるような気がした。


そんな彼の気持ちにはお構いなしに、傍らの小さな弟は、熟れたスイカをうまそうに戴いている。
(そういえば)
今年はもう家族の誰も、バクがスイカの種を飲み込まないか…ということを気にかけ、目を配ってはいない。
そんなことが一度気になると、昨年だって既にそうだったかもしれない…そんな気がしてきた。
では、その前の夏はどうだったろう。
心なしかぬるくなり皮に近づいたスイカを齧りながら、なんともなく考えたオーバは、「その夏」自分がこの街にはいなかったことを思い出した。
(バクが種を飲み込んで大泣きしたのは、更にその前の夏のことだった。)

バッジを集めリーグに挑戦したあの日々から、既に2年経が経っていた。


やんわりとした物思いは、床に着いた後も続く。
横たわった視界が網戸越しの月を見据える。
寝巻き代わりのタンクトップからむき出しになった腕には、はだかけ布団が心もとなく感じるほどに、すごし易い。
(眠れない…)
ごろりと寝返りを打つ。11時半。
まどろみは一向に訪れない。それどころか身体が妙に運動を求めている気すらする。
ついに上体を起こすと、少し考えるようにしてから、彼は寝床から飛び起きた。

 

 

 


道なりに近づいてくる足音が聴こえ耳を欹てていると、それはデンジの正面の塀の向こう側で止まった。
「…デンジ、起きてるか?」
家族もとっくに寝てしまった時間だ。ガラス戸を開け座りながら夜風にあたっていた夜分、聞こえたのは幼馴染の声だった。
「起きてる。なんだよ、どうした」
よっしゃ、という声が小さく聞こえる。こんな時間にやってきて、もし起きていなかったらどうするつもりだったのだろうか。
「おい、ここで越えんな。玄関からまわってこいよ」
塀の上に掛けられた指が覗いたのでそう忠告した。


「何してたんだ?」
にしし、とオーバが笑いながら歩み寄る。昼に遊んだときと同じビーチサンダルを履いている。
「こっちの台詞だろ。俺が寝てたらどうするつもりだったんだよ」
そう言いながらもデンジの表情は柔らかい。
こんな夜更けに、約束もないのに、会っているのだ。
いつもとは違うシチュエーションがデンジをワクワクさせたし、
オーバもやはり思いも拠らぬ歓迎に気持ちが高ぶっていた。
久しぶりのこの感じ。
「寝れなくてさ…!デンジも起きてる気がして来た」
「嘘だろ、エスパーかよ。寝れなくて起きてたのは俺もだ」
オーバはデンジの隣に腰を掛ける。
(左足は、先週の手持ち花火の残り屑を、蹴飛ばした。)
腕を伸ばして軽く伸びをしてから、上体を室内に投げる。
四角く縁取られた夏の終わりの空を仰ぐ。
満月ではないが雲はない。星たちも輝く、明るい夜空だった。

デンジは寝転んだオーバを振り返った。月明かりが淡い影を被せる。
「月見してた」
「は?早くね?」
「涼しくなったからもう秋なんだろ」


本当は特に何をしていたわけでもなかった。
だがこの涼しげな風と月明かりの中佇んでいた自分が、一体何をしていたのだろうと考えたら、それは月見なのだろう、となんともなく思ったのだ。秋の訪れを感じると同時に、行ってしまう季節に寂しさを感じていたのかもしれない。
皆、秋を感じても、本当は感じていても、すぐさま口には出さないような気がする。
夏が名残惜しいのだろうか。
だったら逆に秋を歓迎してやれよ、と急にそんなことを思った。


ほのかな逆光の中、デンジの表情がはっきりと見えたのは、どこか不思議な光景だった。
「俺は…」
ただ眠れなくて、なんだか急にデンジに会いたくなった。
「夕飯に食ったスイカがまずかった…」
デンジの言った『涼しくなったからもう秋なんだろ』を、反芻しながらつぶやく。
「なんだそれ」
「だから腹壊したのかも」
「適当なこと言ってるだろ」
「うまいスイカが食いたいな…」
遠くに聞こえる虫の音がどこか未練がましく響いている。
「暑くなくなってからスイカ食ったってうまくないぜ」
「…だよなあ!」
急に起き上がったからデンジと頭をぶつけそうになった。
デンジは怪訝そうな顔をしたが、傍らの友がなにやら嬉しげなのでよしとした。
「しっかしよく晴れたよな、明るくてよく見える」
オーバはまた飽きもせず空を見上げる。
それをうけた友も、彼の目線を追って仰ぎ見た。




大人になることは、もしかしたら、時間の流れが気になるようになること、なのかも知れない。

『オーバはなんか変わったよ』

今よりも少し幼い友の言葉を聞いた時のこと、旅から帰った後のことを鮮明に覚えているわけではなかったが、そのとき胸に沸いた気持ちは、純粋な嬉しさとちょっとした誇らしさ、同時にどこか友を遠くに感じた寂寥だったような気がする。
それはオーバの胸に初めて沸いた感情だったのだ。

自分が旅をしている間もデンジはこの街に留まっていた。オーバはそれを、自分がデンジよりなにかに関して一歩リードしたのだ…というようには思わなかった。
自分には自分の、そして友には友のやり方があるということを、彼は知っていた。
それでもその短い(もしくは長かったのかもしれない)旅によって分かれた幼い二人の空間は、彼らの意識の間にもなにか隔たりを作ったことは仕方が無かった。


オーバはこの夏の終わり、やっと、それまでなんとなく心のすきまのように感じていたものの正体を知った。自分がこの友に対し、幾許かの距離を感じていたということに気がついた。
数年前にこの街の外を旅した。一人で生きた。
それを境になにか、自分の中のなにかが変わってしまったような気がしていた。
成長という名のついた変化なのかもしれない。
しかし、何かが以前のようにはいかないのだ。よくわからないが、以前のようにうまく遊ぶことができない気がする。もうかつての夏はこないのだ。
そう思った。
しかし実際のところ、それはこの街にのこったデンジも同じだったのだ。
昼間、炎天下で、海で、遊ぶのも、かつてとはどこか風合いが違う。
そして夏は人の心に名残惜しさを残し去ってゆく。
そのことにデンジも気づいていたのだ。
当然だれもが大人になるのだ。

今年のスイカは当然、去年のものとは違う味がするようだった。




潜ましく鳴く虫たちの他はみな寝静まったような夜更け、何をするでもない子供が二人、誰に知られることもなく、静かなときを共有している。二人の気がつかないうちに、時計の針が重なろうとしていた。




















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誰が経験してもおかしくない心の成長痛みたいなものが
やんちゃ坊主だったオーバにもくるんかな~
それだったらもしかしたらアニメオーバの謎の大人っぷりのもとは
多感な時期の旅の体験だとかそれから感じたことの蓄積だったんかな~とか考えたら…


それでもオーバは幼少期~10代の旅をへて大人になるまですごす日々のなかで
「やっぱりデンジは身近な親友」感を強固なものにしていくのではないかなみたいに思いました。
デンジは…いろんなパターンがあってよいですね…

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