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pkmnのデンジ・オーバとその周辺を愛でる非公式ファンブログ
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一応バレンタイン更新なのにデンジが出てこないし前日の話
正月のものと微妙につながっているかも














雪の降る街はまっしろだ。
全体が人工に整備されたナギサも、この時期ばかりは、優しく厳しい自然にすっかり抱かれることをよぎなくされた。夜は、しんしんとまたはごうごうと降りしきる白と、もやと、その白(または灰)の中には明かりが灯り視界に入る物々の中で人々の顔だけが生気を帯びている。吐息は白い。昼間珍しいものでもないだろうに、子供たちは飽きもせずにその自然の贈り物で遊んでいる。そういう景色は二月も中盤にさしかかろうとする今になっても珍しくはない。しかしさすがにもうそろそろ見納めになるのだろう…そんな時節だった。

 
そんな時節にだ、俺はこれまでならちょっと出くわさないだろうな、という感じの悩みを抱えていた。厳密に言うと今まさにでくわしたのだ。俺はどこにいるのかというとご近所の知り合いがやってる小さなスーパーのレジの手前、賞味期限の迫ったお買い得品だとか、季節モノだとかがよく並べられるコーナー。手にはお会計前の暖かい茶。
 
(…なんつーか…)
 

それは夕方だった。今日も午後からずっと雪が降っていた。俺はさみいさみいとマフラーを抑えながら暖を取ろうとなんともなしに近くのスーパーへ駆け込むと、適当な日用品とスナック菓子を物色し、結局温かいお茶だけを手にとってレジに並んだ…いや並びかけて、はたと、とっさに退いたのだ。視線の先にはすでに見慣れた字面、決して今シーズン初めて見たわけではないそれがあった。一画は小さい店の割に凝られた飾り付けで全体にシックにまとめられていたが、一番目立つところにその金色の文字が光っていた。
 
――St. Valentine's Day.――
 
 

 
(俺…
 こういうのは別にやんなくていい…んだよな)

 
浮かぶ仏頂面をかき消しながら、そんな思いつきに自分でギョッとした。そういえば今日は何日だ。2月13日だ。今、ここで、というならどうしてこれまでなにも考えなかったのだろう。ちょっとしたジコドウイツセイの変化みたいなミョウな気分だった。つまり今まで貰ったり貰えることを期待したことはあっても、まさか自分がよこす側の立場に…いや、まだ確定はしていないけれど。ちょっとでもそんなことを考えるような、そんなことになるだなんて。…頭が痛い。しかしよくよく考えると今日まで店のチョコレートコーナーをスルーしていたのはしごく当たり前のことなのだった。(元々俺には用のない場所だったのだから)
 
さて、問題は。この行事は「女の子があげる」というのが重要なのだろうかということだった。イッシュ地方では送る側の性別は関係なしに感謝のプレゼントをする日だと聞いたことがある。でもこっちでは本命だの義理だの友チョコだのと盛り上がるのは普通女の子だから、俺がここでなんやするのはやっぱり大間抜けなんじゃないだろうか。
 
(でも…もしだ、もし!一応そういう行事なわけだし、なにかしら期待されてたとして、「なんも用意してません!わりい!」とか言ったら、さすがのあいつもちょっとしょんぼりする…?でも俺がチョコとか用意しといて、デンジにそれをやるとかオイ、ちょっとオモシロイだろ!うわっ…ねーよ!つうかデンジ毎年貰いまくりだし俺がやる必要とかあんのか、ねえよな、ってかアイツもしなんか欲しいとか思ってても実際やったら絶対笑うだろ…)
 
デンジとなんやかんや始まってから…付き合いはじめただとかそんなかゆくなる表現は全くそぐわないので、なんと言っていいのかわからないのだが、まあとにかく腐れ縁の関係がちょっとだけ変わってからだ、俺はこんな風に慣れないことばかりしている気がする。特に、ぐるぐるとしょうもないことを考えることが増えた気がする。やるせない。なによりアイツは俺がつれないと時にすねる。(しかもそのすね方も素直でないから実にかわいくない)(素直にすねたところで全くかわいくないが)そのくせして、ときの雰囲気で俺がちょっとその気になってそれなりの反応なんだりをすると、なんと調子にのりやがってここぞとばかりに爆笑してくるのだ。あんまりだ。
 
ふざけんなこっちの身にもなってみろ!と一度キレた事があったが、何を勘違いしたのか満足そうな様子で「やっぱりおまえ…」と言ってきて、そこで止めるものだから腹が立ってつい、なんだ言えよ!と引っ返してやった。すると珍しい、俺が言うんだから本当に珍しい、妙にやさしげな笑み(デンジが浮かべたとたんそれは薄ら寒いなにかになる)をこちらに向けて「言っていいのか、言うぞ?やっぱりおまえかわいいとこあるよ」と言いやがった。そのときの脱力感、無力感、筆舌しがたい思いよ、俺は「違う!」と誰かに弁明したくていたたまれなかった。何を弁明したかったのかはわからない。かわいいだなんて男に、このデンジの野郎にだって、言われたのは初めてだったのでギョッとしただけだ。しかもやっぱりってなんだ、そもそも俺にそんなことを言う気持ちも全くわからないし、その言い方と併せて正直ちょっとソワッとしたし(ごめん)。あと実を言うと俺はまだデンジにどう接していいのかわからなかった。そういう相手としてはって意味だ、ばかやろう。俺が変に意識しすぎなんだろうか。おまえ、それ絶対俺以外に言ってやって喜ぶやつたくさんいるからな。
 
その時は冷静ではいられなくて、というよりうまく言葉が出てこなくて、わたわたもごもごしただけになって、そんであいつの勘違いにも拍車がかかる。勘違いだ、断じて。間違っても照れたわけではなくて、混乱しただけだ本当に。マジで。情けない。
 
(…う、うぜえ…)
 
ふと、男一人ではちょっと居辛い場所に長居しすぎてしまったことに気がついた。手に感じるぬくもりもだいぶぬるくなってしまっている。俺は急にアホらしい気分になってレジの台にそれを置くと、なんとなくお買い得品の饅頭も添えてお会計をすませた。バレンタインのことは後で適当に考える。俺が妙に悶々としているところで、レジのおばちゃんがふいにニコリと人好きのする笑顔を見せた。(俺は、ははあ同じ笑顔でも人によってぜんぜん違うよなあ、とかデンジにえらく失礼なことを考えた)すると、なんと彼女はSt. Valentine's Day コーナーにひょいと手を伸ばしちょっと立派なやつひとつをとって、饅頭と一緒にビニール袋へ入れてくれた。俺がキョトンとしているとおばちゃんはニコニコしたまま言った。
 
「せっかくおいしそうなのにこんな風に構えて売られちゃ男の人は買いづらいわよねえ…オーバ君よね?これ、あんまりうれしくないかも知れないけどおばちゃんからのバレンタインプレゼントにしとくから、四天王のお仕事がんばってね。」
 
やっぱり見られてしまった…のは当然といっちゃ当然だが恥ずかしかった。
――どんなに寒い日でも人の心は温かくなるものだ。
 
 


家へと向かう路、天候のせいもあってすっかり暗くなってしまった空を、街の明かりが照らす。とっくに冷めきった茶を悴んだ指で握りながら歩く。身体は温まったので家まではもつだろう。しまった結局デンジにあげるものは何も買わなかった。考えながらもそんなのはしごく小さなことのように思えて、まあなんか俺なりにやれることをしてやろうとそう思った。バレンタインの日にいかにもな感じで「おまえにハイこれ、バレンタイン!」と渡すのがシャクだったら、そうだ、俺が旅に出てる間に腕を上げた自前のポケモンフーズをおまえのポケモンにと言って持っていってやればいい。どうした急に、と言われたら、なんつうか日ごろの感謝だ、とかなんとか言えばいい。そうあえてのバレンタインに。それならあいつだって素直に受け取るだろう。ちゃかしてはこれないだろう。それとも、それでもあいつはすねるだろうか。調子のいい俺はそのときになると、すっかりやつの反応が楽しみになっていた。
 
材料は確か家にあったはずだな。明日あいつはいつもそうするようにジムを閉めて居留守を決め込むだろうから暇だろう。(デンジはジムリーダーになってからは特にたくさん貰うので、ちゃっかり郵送で受け取るシステムを確立していたが、それでも毎年すごい数の贈り物が届く。俺も顔見知り以外からはリーグの窓口からもらっていた。)恒例のバレンタインで貰ったチョコ数バトルは今年もするんだろうか。とそんなことも考えながら、寒さに身を縮めながら、それでもどこか楽しげな気分に浸りながら、ひたすら歩いた。








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デンジがここぞとばかりにプゲラするのはたぶんツンデレ的な何か
お返しの日のような白描写になってしまいましたが欲にまみれがちなバレンタインにあえてまっ白な気持ちを貰って、あげて的な…あっすみません寒くて↑○↑

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