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pkmnのデンジ・オーバとその周辺を愛でる非公式ファンブログ
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いただいたお題で書かせていただきました。
コウキくんもいるのでゲーム設定です
もしかしたらちょっと読後感が悪いかもしれません…



















その夏僕は
幼くまっすぐな、そして純粋な憧れで、大きな背をした大人だった彼を、ただ慕っていたのだ。だから、そのとき彼がひそかに抱えていた、繊細で複雑ななにか――そういうなにかが彼にはあったのだと思う――は、こどもだった僕にはなにもわからなかった。
(そして今の僕にも決してわからない。)




デンジさんは、やっぱり台所にいた。ガスコンロの向かい側にある冷蔵庫のほうをむいて立っていた。不思議なのは、ただ立っているだけで、その扉を開けて何かを探したりはしていないということだった。僕は入り口ではたと足を止める。この時どうしてすぐに声をかけることができなかったのだろう。窓の外で鳴り響く季節はじめの蝉たちと、それをつつみこむ夏の日差しはやかましいくらいで、遠慮なく部屋の中に染み入(い)ってくる。だから僕は、電気なんてついていなくてもその横顔をはっきりと見ることができてしまった。確かなことはわからなかったけれど、デンジさんは足元の何かを、ただ見つめているみたいだった。

「…どうしたんですか?」

ふい、とこちらを向いたデンジさんはもう僕のよく知っている顔になっていた。口の端がかすかに笑みの形になる。それを見た僕はなんとなくほっとする。

「そっちこそどうしたんだ」
「デンジさんの戻るのが遅いから、ってオーバさんとジュンが心配してましたよ」

ここ、デンジさんの家へ遊びに来てからすっかり仲良くなったふたりの様子を思い出しながら言う。僕はちょっとだけどんくさいから(ジュンにはよくそう言われてしまう)、パワフルなふたりにはときに乗りきれなくなってしまうけど、元気いっぱいなふたりを見ていると僕はそれだけで楽しくなるのだった。『あれっデンジさん遅いなあ。飲み物取りに行ったままどっかいっちゃったのかな』と言ったのはジュンで『あいつもじゃんけんで負けたくらいじゃ不貞寝はしないだろうからな』と言ったのはオーバさんだった。

「…悪いな。こっちに来るついでに少し片付けをしていたんだよ。オーバのやつ昼にそうめんをゆでるとき、少し吹き溢していたんだ。まったく。」

そう言いながら、ガスコンロを見やるデンジさんの顔はちっともおこってはいなかった。ここにオーバさんがいないからかな。僕はなんだかちょっとだけ不思議な気持ちがした。



「デンジさんとオーバさんはどれくらいお友達なんですか?」

ステンレスに微妙に残っていた汚れを見つけてふき取りながら、デンジさんは「ん」とこちらを見た。

「どれくらいって、長さかい」
「はい」

デンジさんは手を止める。すぐにハハ、と笑うと、実は俺たちその手の質問には慣れっこだ、四天王とジムリーダーが同じ街の出身で仲がいいとなればみんな気になるだろう。と言った。僕は、「やっぱり仲良しなんだなあ」と、そんなつまらないことを思った。

「もうだいぶ長いさ。きみとジュンを見ているとたまに昔のことを思い出すよ。」
「本当ですか。おふたりはいつも何をして遊ぶんですか?」

いったい何が面白かったのかわからなかったけれど、そこでデンジさんは心の底からおかしそうに噴き出した。僕は意味も無くあわてる。

「あっ、僕とジュンはまだ、こどもですけど、デンジさんとオーバさんみたいに大人になってもずっと遊んだりするのかな、それだったら嬉しいやって…ちょっと思ったんです。ごめんなさい。あと、やっぱり大人になると変わっちゃうこともあるのかなって思ったんです」

失礼なことを訊いてしまったのかもしれない、そう思って、わたわたと言い足した。もしかしたら、大人は遊んだりはしないのかもしれない。シンオウ中を旅したって、僕にはまだいろんなことがわからなかった。『あなたはコンテストで人前に出る度胸はあるほうだと思うけど、たくさん話すとすぐに顔が真っ赤になっちゃうわね』というおかあさんの言葉を思い出して恥ずかしくなる。きっと今僕はすごくかっこわるいだろう。見るとデンジさんは、うーんとちょっとおおげさにあごのあたりに手をあてて考えてみたりしている。僕も早く大人になりたいと思った。

「そうだな…基本的にはなにもかわらないな」
「なにもかわらないんですか」
「ああ」

特にあいつはずっとあんな感じだからな。俺としてはもう少し大人らしくして欲しいところなんだが。…さてそろそろ戻るか。うるさいのが待ってるからな。そう言うとデンジさんはそのまま台所を出ようとする。デンジさんは何も気にしていないみたいだったけれど、僕にはまださっきの恥ずかしさが残っていて、なんとなく何か話を切り出したくて、とっさにそれを聞いていた。

「あ、あの
  さっきは何かを見ていたんですか?」
「ん」

ああ、そうだった。そう言うとデンジさんはまるで僕に言われて初めて思い出したみたいに――しゃがんでそれをつまむと、こっちに見せてくれた。それはさっき、ちょっと遅めのお昼のあとにみんなで食べたのと同じ棒アイスだった。透明な袋の中身はほとんど解けてしまっている。

「さっき持っていくとき、間違ってひとつ落としたのがそのままになっていたみたいだ。忘れてたよ、ありがとう。」

そう言った目は、どうしてかわからなかったけれど、どことなく遠くを見ているような…そんな気がした。

「それ、もったいないですね」
「もったいないが、フム
 一度溶けたら再び凍らせても成分が変わってしまうからな」

まあいい。さて行こうか。
デンジさんは冷蔵庫からペットボトル数本取り出すと、これを先に持っていってくれと言って麦茶のボトルを僕に手渡した。




『変わっちゃうこともあるのかなって思ったんです』

なにも変わらないと答えたそれは偽りではなく、しかし真実でもなく、きっと切実な願いのようなものだったのだろうとそう思う。みつけたそれを、俺はただじっと見ていた。いったいこれがなんだというのだろう。思考も時も一切が止まってしまったかのように、蝉の声が遠く耳障りに響く。響く。そして見つめるうちにもそれはどんどん解けていった。自分はいつの間にこれを落としていったのだろうか。
不毛なことだ、と首を振る。

何年たっても、そして何をするようになっても、俺たちは変わらなかったのだ。変わらないあいつと変わらない俺、そして変わらない俺たち――しかしそれはきっとそう見えるだけで…もしかしたらアイスクリームとは逆で、中のほうから、じわじわと――そうやって気がつかないうちに溶けていって、きれいに見えた外側も最後には崩れてしまうのだろうか。そしてその終止符がうたれることがあるとするならば、それをするのは果たして俺なのだろうか。オーバなのだろうか。
俺はまた首を振る。
こんな妄想をするようになったのはいったいいつからなのだろう。





 俺はジュースのボトルを数本抱えて台所を出ると、すぐに追いついたその背に声をかける。

「コウキ、よかったらまたジュンと一緒に来てくれよ」

またいつでも4人で遊んでくれ。あいつも喜ぶだろうしな。
少年と呼ぶにもまだどこかあどけなさを残す背中は、そう言った俺を振り返ると、澄んだ瞳ですこしだけ見上げ、まっかな、はにかんだような表情で「はい!」と嬉しそうに笑った。








**********

アイスクリームシンドローム(アイスが溶けたらどうしよう)

デンコウ?コウデン?まではいってもいかなくても、この二人に何年か後にもちょっとした親交があったらどうなんかな~みたいなことも考えてみながら書いてみました。コウキくんが幼なすぎたかもしれない…。
ショタ属性はあまりないのですが赤面症コウキくんはむちゃかわいいと思います

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